自民党政権の目指す「緊急事態条項」――実は独裁者が喉から手が出るほど欲しがる「切り札(ジョーカー)」!―― 参院選まで7ヶ月、梓澤和幸、澤藤統一郎両弁護士が警鐘 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279522 2015/ 12/09
澤藤「私が話したいのは『国家緊急権規定』について。これは立憲主義崩壊へのレッドカード。大江志乃夫さんの『戒厳令』を愛読していますが、『戒厳令はトランプで言うとジョーカー』と書かれている。ジョーカー一枚がすべての秩序を崩壊させる『切り札』ということです。
戒厳令は憲法秩序のシステム崩壊のジョーカー。戒厳に限らず、国家緊急権もそういう役割を持っています。個人の尊厳にもっとも敵対する敵は『強大な国家権力』です。権力は、強い権力を持ちたいという衝動を持っている。その最大の武器が国家緊急権です。
非常時に憲法の例外体系を作ろうというのが国家緊急権規定ですが、明治憲法下ではどうだったか。大日本帝国憲法では手厚く国家に緊急権を与えていた。まずは『戒厳大権』。 『天皇は戒厳を宣告す。戒厳の要件および効力は法律をもってこれを定む』――。 『戒厳令』という勅令が、そのまま法律になるわけです。
『非常大権』というものもある。明治憲法でも臣民は権利を持っていた。しかし非常時には、『天皇大権の執行を妨ぐることなし』。つまり、国家の非常時は別で、主権者・天皇は臣民の権利を制限してもよいということ。
そして『緊急勅令』。緊急事態には、天皇は法律と同じ効力を持つ勅令を出すことができた。『緊急財政処分』では、法律を作るだけでなく、予算を措置する権限も与えられています。この4つが明治憲法の国家緊急権と言われる規定で、大変、便利この上ないでしょう。
その上をいくのがナチスの『授権法』『全権委任法』。33年の3月23日に成立。時限立法でしたが、結局33年から45年の5月まで続いたわけです。一度握ったものは離さない。この法律で国会は機能停止。代わりに政府が法律を作ることができることになるんです。
予算措置もでき、条約も結べる。『憲法に反しても構わない』とまで。これでワイマール共和国は息の根を止められた。この法律があった11年間で政府が作った法律は985件。国会が作った法律は8件だけ。立法権が乗っ取られ、議会制民主主義が完全に死滅しました。
日本国憲法はこういう条項を持っていません。つまり、基本的人権尊重タイプの憲法の行き着く理想形として憲法ができた。しかし、自民党改憲草案『緊急事態条項』は、『全権委任法』によく似ている。緊急事態には、国会の過半数があればなんでも作れるんです。
緊急事態宣言の効果として、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができ、総理は財政上、必要な支出の措置をすることができる。つまり、大日本帝国のものと、ナチスの全権委任法の2つを組み合わせたような内容。絶対に作らせてはいけません。
安倍政権は、喉から手が出るほど『緊急事態条項』が欲しいんだと思います。『あったらいいな、ナチス授権法』。これは流行語になるといいなと思います。また、緊急事態宣言が発せられると、政府は国民に対して、命令できると明瞭に書き込んであるわけです。
非常に怖いことです。空襲の時に逃げてはいかん、消火に当たれ、というような法律を作るわけですね。1945年3月10日、10万人の人が焼け死んだうち、非常に多くの人が『空襲法』に縛られて亡くなったと言われていますが、そういう法律を作りたいんです」
梓澤「私が付け加えたいのは、『武力攻撃事態法』がすでにありますが、ここに公の機関として、みなさんが大嫌いな東京電力、NHK入ります。指定公共機関、各民間放送。例えば、原発事故があったら東電はどうします? 『秘密は絶対に出すな』となります。
3.11で実際にそうでした。福島では300マイクロシーベルトの地点で、誰にも線量が知らされないまま、おにぎりが配られていた。避難したフランス人アナウンサーがNHKから解雇されたが、フランス大使館とアメリカ大使館の関係者はヨウ素剤を飲んでいたですね。
非常時に、そんな指定公共機関の言うことを聞かなきゃいけないということになるということです。続いて、戦前の戒厳が敷かれた時の事例をお話します。緊急事態宣言とは、行政、または軍に権力を集中し、他の一切の立法、司法を動かさなくするものです。 となると、今の憲法の原則…例えば逮捕令状がなければ逮捕できない、というようなこともなくなり、警察が自分たちの規則だけで逮捕ということもできるようになる。
もう一つ考えなければいけないのは、自民改憲案の9条の『国防軍審判所』というものです。 国防軍審判所とは、軍人が職務の遂行上犯した犯罪を処罰する、いわゆる軍法会議の規定です。何を想定しているかというと、改憲案9条の『治安行動』です。国防軍がデモ隊を鎮圧する際、不当な逮捕や殺害がなかったかを軍法会議で検討するんです。
その事例があります。関東大震災です。知られていませんが、関東大震災で民衆が激昂し、朝鮮人を追いかけて殺したと物語られているが、実はそうじゃない。先頭に立ったのは、戒厳令下に敷かれていた軍。軍が最初に中国人、朝鮮人を銃剣で刺殺したんです。それは全部、軍法会議がありながら、裁判はまったく行われず、軍隊は『朝鮮人と中国人がかかってきたから刺殺したんだ』と言った。また、軍隊の流した情報で、民衆は朝鮮人が襲ってくると信じこまされて、それで朝鮮人を殺したんだということもあります。
今度、非常事態宣言下で色んな反戦活動家、反政府の活動家に対する弾圧があったとして、それに抵抗すれば、そこに出てくる武装部隊がやったことは、すべて軍隊側の軍法会議だけで審査されることになる。もう国会デモはおろか、自由は制限されることになります。 石破さんが『命令を聞かない軍人がいたら、死刑、無期または懲役300年にするのが軍隊というもの』と言っていた。もしデモ隊の前に銃剣を持って軍が並んで、『それいけー!』の時に、『俺はデモ隊を刺殺したくない』と言えば、死刑や懲役300年になるんです。
1937年という年を、是非ご記憶ください。その年は何だったか。2つの本を持ってきましたが、一冊は石川達三の『生きている兵隊』。石川は芥川賞第一回の受賞者なんですが、南京大虐殺の直後に南京に入り、兵隊たちがどんなにひどいことをやったかを書いた。同年1937年9月に矢内原忠雄さんが『真実と戦争』という論文、エッセイを書き、それがきっかけで東大から追われることに。その後、中央公論は発禁になっています。矢内原が書いた1937年の11月号の中央公論も発禁。そして会社自体が潰されました」(・・・)
梓澤「ひとつ強調しておきたいのは、当時あれだけ厳しい状況のなかで、書く人たちは命がけでやっていた。やがて潰されることも覚悟で、命がけでやった。今違うのは、マスコミ統制の動きがあり、メディアはものすごい空気を読む。この空気をぶち破る人間が必要です」
**********以下、日刊IWJガイド 2015.12.19日号より**********
・・・仮に改憲が現実に行われ、「緊急事態条項」が設置されたら、原発も、消費税も、貧困問題も、辺野古の反基地闘争も、安保法制も、TPPも、おおよそありとあらゆる問題について、政府の政策に対し異議申し立てができなくなる。 すべてのマルチイシューを、国家権力の極大化によって踏みつぶすことができる「最終手段」を政府の手に与えてしまうのです。
権力は、いったん握ったこの「非常大権」を手放すことはないでしょう。 この規定によれば、大災害やテロ、戦争などに際して、政府が「緊急事態」を宣言すれば、国民の基本的人権は著しく制限をかけられ、事前に国会の承認がなくても法律と同じ効力をもつ政令を制定することができるようになります。
かつてヒトラー率いるナチス・ドイツは、1933年2月27日の国会放火事件に際して、時の大統領ヒンデンブルクに「非常事態宣言」を発令させました。共産党の国会議員や左翼運動の指導者など、プロイセン州だけで5000人が逮捕されました。これにより、ナチスに対する組織的抵抗が挫折し、約1ヶ月後の全権委任法(1933年3月23日制定)へと一気に流れ込むことになりました。つまり、「非常事態宣言」の時点で、ナチスによる独裁体制の確立はセットアップされていたということなのです。(・・・)
安倍総理が来年夏の参院選で「明文改憲」を公約に掲げると明言し、その第一歩として、「緊急事態条項」の創設から着手する、と発言していること自体、どれだけ国民の間で知られているでしょうか? その中身や危険性をどれだけ知っているでしょうか? 麻生太郎副総理はかつて「ナチスの手口を学んだらどうか」と発言して非難を浴びましたが、現在の日本では現実に、「ナチスの手口」によって事実上の「全権委任法」が導入されようとしているのです。
この危機的な事態を前に、民主党をはじめとする野党は、明確な対立軸を打ち出せていません。唯一、共産党だけが、安保法制を廃止するための「国民連合政府構想」を打ち出しましたが、各野党との連携はいまだ未知数の状態で、何より「明文改憲阻止」を最大の争点に掲げているわけではありません。どの政党も危機感が不十分です。(・・・以上、日刊IWJガイド 2015.12.19日号より)
参考:「国家緊急権」! ? 不要であるばかりでなく、 災害時にはかえって障害に! おまけに、
政府に濫用される危険が!!!➡ http://www.sewayaki.de/国家緊急権.html
参考: 岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー(動画)➡ http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662 2015/12/19
参考:「政府は必ずウソをつく?」堤 未果 & 三橋 貴明➡ https://www.youtube.com/watch?v=5DCQIo97z50 (29分22秒 )
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2015年 12月19日 セワヤキ www.sewayaki.de