大学の独自判断による「医療維新」!
(日刊IWJガイド2020.5.7 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/40149より)
※医療関係者向けサイト「医療維新」寄稿内容について(山梨大学HP)
必読➡https://www.yamanashi.ac.jp/about/25210
◆山梨大学病院、島田眞路学長の独自の判断で「医療維新」
武漢から帰国した男性に日本で初めてコロナが検出されたのが1月16日です。WHOが「武漢の新型コロナはパンデミックに該当しない」と発表し、日本国内ではまだ危機感がほとんどなかった1月下旬。山梨大学病院では、島田眞路山梨大学学長の独自の判断で、1月27日からコロナの感染拡大に備えて、旧病棟(約300床)の休止設備の準備をするなど、いち早く体制を整備していました。国内の医療機関でももっとも素早い対応の一つだったと考えられます。
島田学長が、医療情報サイト「医療維新」に寄稿した記事には、1月下旬に島田氏が中国でのコロナ禍の状況に衝撃を受け、病院内に体制整備を指示した様子から、その後のコロナ感染拡大への対応過程が生々しく記されています。
「1月25 日、春節を迎えた中国の武漢の様子を伝えるニュースを見て、私は目を疑った。1000 床の専門病院を2棟、10日余りで建設するというではないか。患者があふれる医療機関の様子も映し出され、医療者はフル PPE(個人防護具)で対応している――。WHO の判断とは異なる異様な光景に、直ちに準備を進めないと大変なことになると直観した私は、山梨大病院の感染制御、医療安全のメンバーに連絡を取り、山梨大病院として患者受け入れの体制整備を早急に進めるように指示をした」
島田学長は1月29日に開催された一般社団法人国立大学協会総会で、感染拡大への懸念について警鐘を鳴らしましたが、「医療者でない学長も多かったためか、全体的にしらけた雰囲気は否めなかった」とのことです。当時、国内では大学でさえ、そうした雰囲気だったのです。
その後、山梨大病院では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のコロナ患者を受け入れます。その中で、20代の患者に髄液PCR検査を行い、3月7日国内初のコロナによる髄膜炎/脳炎であることを発表しました。また、3月31日には、心肺停止で救急搬送された8か月の乳児にPCR検査を断行し、コロナに感染していることを突き留めます。この際は、乳児の救命に関わった医療従事者47人が濃厚接触者として14日間の就業制限となり、医療体制に大きな影響を受けました。しかし、この時のPCR検査の実施が、地域の基幹病院としての山梨大病院での院内感染拡大を防いだと、島田氏は述べています。こうした貴重な経験を踏まえ、島田学長は「PCR検査の不十分な体制は日本の恥である」と述べています。
同病院では、1月下旬から PCR検査体制の構築を図り、「院内感染を絶対に起こさないという目的の下、感度を上げて一刻も早く結果を報告するためのさまざまな工夫を積み重ねてきた」とのことです。 島田学長自身は皮膚科の専門家ですが、政府がPCR検査体制を拡充しないことを強く批判し、政府の専門家会議が「これまで一貫して PCR 検査の積極的活用には否定的だった」と指摘しています。
島田氏はジョンズ・ホプキンス大学やオックスフォード大学のデータをもとに詳細な分析を行い、日本のPCR検査数の国際的位置づけをあぶり出しています。その結果、「PCR 陽性患者数や死亡割合が近似する国や地域のPCR 検査数の国際比較」では、「日本の現状はパキスタンに最も近似していることが明らかとなった」と報告しています。パキスタンは、医療の質指標「Healthcare Access and Quality (HAQ) Index」が43 で、89 の日本とは大きな隔たりがあるとのことです。したがって、「PCR 検査実施数に関しては、医療資源に制約のあるパキスタンと同等の水準にあるのが今の日本の現実である」と結論付けています。
さらに「途上国レベルの日本のPCR実施件数によって、死亡割合の母数である PCR 陽性患者数が、実数よりも少なく見積もられている可能性が極めて高い」と指摘。前述の医療の質指標HAQが日本と近いオーストラリア等との比較を踏まえて、「少なくとも約 5000 人、多ければ約 4 万3000人が途上国レベルの日本の PCR 実施件数によって見過ごされてきた可能性が強く示唆される」としています。
(…)これらにより「PCR 陽性患者数や死亡者数に現れない潜在患者が相当数に上った可能性」があることから、東京の永寿総合病院、慶応義塾大学病院、東京慈恵会医科大学病院、中野江古田病院、さらに「第 1 種感染症指定医療機関である都立墨東病院にまで院内感染が拡大した」ことを指摘。「途上国レベルの PCR 検査体制がもたらした全国に波及しうる問題」であり、「日本全国の病院にとって、現状は既にロシアンルーレットにも似た状況にある」と強く警告を鳴らしています。そして、日本のPCR検査件数が低い原因として、専門家会議が「限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要がある」として、「3月下旬までは、地方衛生研究所・保健所が PCR 検査をほぼ独占してきた」ことを挙げています。さらに、行政機関である地方衛生研究所と保健所による「週末の PCR 検査件数の落ち込み」が「途上国レベルの PCR 実施件数の要因の一つ」であるともしています。
島田学長は、こうした分析を踏まえて、新宿区による新型コロナ検査スポットの設置や、横須賀市のPCR外来の設置などの新しい動きによる、地域独自のPCR検査機会の拡充を評価。それらによるPCR検体の採取を受けた、PCR検査機関として、民間会社と大学が果たす役割に期待します。「特に地方では、国立大学がこれらの役割を担うことなしに、他にどこが担えるというのだろうか」「地方の国立大学こそ蜂起すべき」と訴えています。(…)
◆東京慈恵会医科大の進める独自の検査体制―検査依頼から完了までわずか半日!
※「即日1件700~800円」のPCR、驚愕の全貌 「上手い」「速い」「安い」の3拍子揃ったPCRが誕生するまで2020.5.4必読➡https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60385 ~3
(…)センターは「上手い」としているが、「現在の基礎医学研究において、遺伝子レベルの解析は日常茶飯事であり、携わる研究者は普段からその取扱に長けています」(…)センターが原価を明かしているのも特徴的だ。大学の人件費の中で対応しているとはいえ、1検体当たり700~800円と説明する。保険適応の範囲を考慮することなく、“攻め”の検査ができますと指摘している。日本の保険適用の検査では、施設内では1検体で1万3500円、施設外だと1万8000円としている。(…)
あまり知られていないが、健康保険法等の遵守事項を定める厚生労働省令「保険医療機関及び保険医療養担当規則」では、保険診療の中で、健康診断を行うことは禁止している。平たく言えば、病気でもない人を対象に、保険診療をしてはいけないと定めているのだ。(…)「どんな病院でも入院医療が止まれば相当なダメージになる。それを避けられるならば、PCRの経費は十分に無視できるものになる」