「オリバー・ストーン オン プーチン」 単行本2018.01.12オリバー・ストーン著 (*はセワヤキによる注) *プーチンは「悪魔」でも「ヒットラー」でもなかった!
映画『スノーデン』を撮り終わったオリバー・ストーンは、スノーデンが亡命したロシアに密かに渡り、プーチン大統領のインタビューを撮り始める。クレムリンの大講堂で、アイスホッケー場で、ソチの避暑地で。チェチェンの独立運動を潰し、ウクライナからクリミアを強引に併合、政権に楯突くものは次々に不可解な死を遂げる。西側の報道によるそうしたイメージはストーンのインタビューによって揺らぎ始める。(*以下、本の第一章から第十二章までの目次。「 」内の言葉は各章とも2つ目の「 」より本から付け足しました。)
〈第一章〉5度の暗殺未遂にもかかわらず悪夢は見ない〈一度目の訪問初日
2015.07.02〉「就寝は午前零時、起床は七時頃だ。いつも六~七時間は眠っていた」
〈第二章)万能感に浸る国家は必ず間違う〈一度目の訪問二日目 2015.07.03〉「NATOには二種類の意見しかない。アメリカの意見と、間違った意見だ」
〈第三章)ロシアがスノーデンを引き渡さない理由を話そう〈一度目の訪問二日目 2015.07.03〉「スノーデンは祖国を裏切ったわけではない。公表という形でしか情報は出さなかった」
〈第四章)アメリカはロシアという外敵を必要としている〈一度目の訪問三日目 2015.07.04〉「イスラエルのパレスチナ封鎖を批判する人は多い。が、ウクライナ政府はドンパス地方に同じことをしている」
〈第五章)平和を支持するのは楽な立場だ〈一度目の訪問三日目 2015.07.04〉「あなたは平和を支持するという。それは楽な立場だ。私は親ロシアだ。私のほうが難しい立場にある」
〈第六章)同盟国と国民を追い込むシステム〈二度目の訪問初日 2016.02.19〉「レーガンと私のあいだには大きな違いがある。破産しかけているのと、実際に破産しているのとでは大違いだ」「大規模なアメリカ軍基地を受け入れている国々。それを占領軍と言うつもりはないが、他国の大規模な軍隊が自国の領土に存在するという状況は、こうした国々の国内政策に影響を及ぼす。彼らはアメリカとの関係を構築している今、近い将来それがどのような事態をもたらすか考え始めたほうがいい。だが私が見る限り、アメリカは同盟国を一段と強固に囲い込もうとしている。しかも西側ブロック内の国家関係の性質を変えるのではなく、共通の敵のイメージを創り出すことで関係を強化しようとしている。外的脅威だ。しかもそうした脅威から身を守るには、アメリカにすり寄るしかないという認識を植え付けている。こうした戦略において、アメリカは一定の成功を収めていると言えるだろう。ウクライナで危機を引き起こすことで、ロシアに対するそういう見方を強めることができた。ロシアは敵であり、潜在的な侵略者となる可能性がある、という見方を醸成した。自分たちの行為にたいして、ロシアに対抗措置を取らせることにも成功した。だが近い将来、ロシアからの脅威など一切存在しないことに誰もが気付くはずだ。バルト諸国に対しても、東欧諸国に対しても、そして西欧諸国の対しても。 こうした誤解が強いほど、各国の主権を守ろう、国益を守ろうという意識は強くなる。ここまではヨーロッパについて話してきたが、アジアも同じだ。たとえば日本。日本人は自分たちが外から敬意を払われているのか、いないのかという外的サインに極めて敏感だ。名誉を重んじる極めて自尊心の強い国家だ。これははっきり言っておくが、常に圧力感覚は、誰にとっても好ましい感覚ではない。遅かれ早かれ何らかの影響が出てくるだろう。それは間違いない。対話を通じて問題を解決するほうが望ましい。北朝鮮(*の脅威)などを使って陰惨な図式を描き、緊張を高めることもできる。だが今必要なのは新たなパラダイム、国家間の関係構築に対する新たな理念への移行だと私は思う」「新たなパラダイムは、他国の利益、他国民の主権を尊重する姿勢に基づくものでなければならない。アメリカの支援がなければ抵抗できないような外的脅威をつくり出し、他国を脅すばかりのパラダイムは、遅かれ早かれ変化するだろう」
〈第七章)トルコはIS支配地域の石油の密輸先になっている〈二度目の訪問二日目 2016.02.20〉「一台や二台の話じゃない、何千台ものトラックがあの道を走っていた。まるで動くパイプラインのようだった」
〈第八章)クリントン大統領はロシアのNATO加盟を「いいじゃないか」と一度は言った〈三度目の訪問初日 2016.05.09〉「だがアメリカの代表団は非常に神経質な反応を見せた。なぜか? 外敵が必要だからだ」
〈第九章)米国との対立は二〇〇四年から二〇〇七年に始まった〈三度目の訪問二日目 2016.05.10〉「(国民への監視については)アメリカよりはましだよ。アメリカほど高度な設備がないからさ。同じ設備があれば、アメリカと同じぐらいひどいことをしていただろう(笑)」
〈第十章)ウクライナで起きたのはアメリカに支援されたクーデターだ。(*2014年のマイダンクーデターを指す)〈三度目の訪問三日目 2016.05.11〉「ウクライナで大統領選が実施された。ヤヌコビッチ氏(*親露派)が選挙で勝利したが、反体制派は納得せず、大規模な暴動が起きた。この暴動はアメリカが積極的に煽ったものだ」
〈第十一章)ソ連は何年もかけて人材を評価したが、結局崩した〈三度目の訪問三日目 2016.05.11〉「誰にでも、権力を禅譲しなければならない時期は訪れる」「正直に言って、私には彼らの言うような巨万の富はないよ。まずこのオリガルヒという現象がどういうものであったか、はっきりさせておこう。それには1990年代初頭のロシアがどんな状況にあったのか、思い出す必要がある。ソ連崩壊後、残念ながら政治力によって金儲けをしようとする多くの輩によって民主主義が悪用されるようになった。この民主主義の下では、なんでもありだとみなされるようになった。私はサンクトペテルブルクからモスクワに移ってきたとき、ペテン師のあまりの多さに驚き、愕然とした。そのふるまいは衝撃的で、私がそれに慣れるまでに相当な時間がかかった。彼らには罪の意識などこれっぽっちもなかった。オリガルヒとは何か? それはひたすら富を蓄積することを究極の目的に、カネと権力を握って政治的決定に影響を与えようとする人々だ。(…)」
〈第十二章〉ロシアはアメリカ大統領選に介入したか?〈度目の訪問初日 2017.02.10〉「もちろんわれわれはトランプ大統領に好感をもっていたし、今もそうだ。アメリカとロシアの関係修復に取り組む意欲があると公言しているからだ。色々な国のジャーナリストが私をハメようとして、この点を突っ込んできた。そういうときには、いつもこう言うんだ。『あなたは米ロ関係が改善するのに反対なのか?』と。すると誰もが『もちろん両国の関係改善は望ましい。われわれはそれを支持する』と答える」「われわれは断じてハッキングなどしていない。たとえロシアのような大国であっても、他国がアメリカ大統領選の結果に重大な影響を及ぼしうるなどというのは考えにくい。(…)」