「中国包囲」の全体像を見る …そのことが、アジア各国政府や地域ブロックが、アメリカの破壊活動から身を守るためにどのように政策を展開すべきかを考えるための明確な構図にもなる …Brian Berletic(バンコクを本拠とする地政学研究者)
♣アメリカによる中国包囲:進捗報告2021.05.07 Brian Berletic http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-59ca36.html 以下、要約
1969年に漏洩した「ペンタゴン・ペーパーズ」で読める「中国包囲」の発露
このペーパーでペンタゴンは、「中国封じ込め」という長期的取り組みが以下の三つの戦線からなっている(それは依然存在するのだが)ことをすでに明らかにしていた。
(a)日本-韓国戦線;(b))インド-パキスタン戦線;(c)東南アジア戦線
以後アメリカ軍は、日本と韓国に継続的に駐留している。そして、パキスタン、中国と国境を接するアフガニスタンのアメリカ軍による占領は、今や二十年に及ぶ。また、中国に好意的な東南アジア諸国の政権を打倒し、その政権をアメリカが支援する属国政権で置き換えることを狙った“ミルクティー同盟“も「中国包囲」の一環である。これらの「戦線」が今日まで存在していることは明白だ。
日本-韓国戦線
東アジアで、なぜこの膨大なアメリカの軍事駐留が維持されているのかといえば、それが、「同盟」をアメリカ軍が強化し「自由な開かれたインド-太平洋地域」を推進するのに役立ち、緊急事態に対する素早い対応を提供し、アメリカの国家安全保障に不可欠だからだ。実質的なアメリカ占領軍による物理的駐留によって強化されるような「同盟」は、「同盟」が到底自発的でないことを示唆し、「自由な、開かれたインド-太平洋地域」という主張は、大いに主観的である。「インド-太平洋」は、一体誰のために「自由で、開かれた」のかという疑問を提起する。インド-太平洋という地域的規模でも、世界規模でも、アメリカの権力が衰えるにつれ、ワシントンは、対中国封じ込め戦略で、財政負担の支援にとどまらず、軍事面でもより積極的になるよう日本と韓国両国への圧力を増大している。
インド-パキスタン戦線
パキスタン、中国と国境を接するアフガニスタンのアメリカ軍による占領は、今や二十年に及ぶ。クアッド同盟へのインド徴募に加え、アメリカは中国とインドの様々な領土問題の政治支援やメディア選挙運動を通して、エスカレーションを促進している。アメリカは、パキスタンのバローチスターン州の武装反抗分子支援を含め、中国とパキスタンの親密な進行中の関係にも標的を定めている。最近起きたバローチスターンのクウェッタホテルでの爆発は、駐パキスタン中国大使、Nong Rongを標的にしていたように思われる。これについてのBBCの報道に欠落しているのは、アメリカ政府がこれら分離主義者に長年提供していた大規模なあからさまな支援についての報道だ。明らかに、ワシントンが中国に対して行なう「代理勢力による武力衝突」のもう一つの例だ。アメリカ政府の全米民主主義基金(NED)ウェブサイトに列記され、「パキスタン」という分類下で、バローチスターンで分離主義を支持する政治集団に資金が供給されている。「Association for Integrated Development Balochistan」などの組織がアメリカ政府によって資金供給され、その資金は、パキスタンにおいて、アメリカが内政干渉をし、人々を政治的に動員するために使われる。
(パキスタン南西部の)グワダル港プロジェクトは、一帯一路構想の一環として、成長する中国インフラ計画のグローバルネットワーク中で重要な地点だ。アメリカは明らかに中国の勃興に反対で、それに対処するための明瞭に表現された確固とした戦略を述べている。ベトナム戦争に関するペンタゴン・ペーパーズで見られるように、開戦を含め、全てが予め用意されているのだ。 パキスタンのバローチスターンで起きた最近の爆発事件からわかることは、中国・パキスタン間の協力関係を損なうために、現地の過激派戦士を継続的に利用するという戦略が存在することだ。中国を包囲し、封じ込めるための広範な地域規模の戦略の一環が、この爆破事件であることは明らかだ。
東南アジア戦線
もちろんベトナム戦争(1964~1973)は、東南アジアに対する欧米の優位を再び(かつての植民地時代のように)主張し、中国の勃興にこの地域が拍車をかけるのを阻止するための、広範な取り組みの一環であった。
アメリカがベトナム戦争で敗北し、東南アジア地域からほぼ完全撤退したことで、東南アジアは、彼ら自身の間と中国との関係を修復することになった。今日、東南アジア諸国は、中国を、地域全体への多数の観光客提供に加えて、最大の貿易相手国、投資国、インフラ整備の重要パートナー、地域の軍隊のための重要な供給元、と考えている。タイのような国では、西欧諸国からの観光客全てを合計したより多くが、中国からやってくる。
そうこうするうちにアメリカは、自身の戦略に既存の東南アジア諸国政府が役立たないことに気づき、彼らの代わりに傀儡を政権に据えるべく養成し(政権転覆を)試みることが必要なことに気づいたのだ。そしてこれがベトナム戦争以来進行中のプロセスである。アメリカは何年も、個々にそれぞれの国に目標を定めてきた。
タイでは、2009年と2010年、アメリカに支援された「追放された野党指導者」タクシン・チナワットが、次から次の暴動で、約300人の武装過激派闘士を含む彼の「赤いシャツ」抗議行動参加者を派遣し、バンコク中での放火や、90人以上の警察、兵士、抗議行動参加者や見物人の死で頂点に達した.
マレーシアでは、野党を構築するため、アメリカは10年以上、何百万ドルもを注いだ後、2018年、アメリカに支援される野党がマレーシアで権力を掌握した。 マレーシアで「自由を推進する」どころか、アメリカ全米民主主義基金NEDの下部組織、共和党国際研究所のトワイニングは、マレーシア内政に干渉する究極の目的は、マレーシアだけでなく、地域全体で、特に中国を包囲し、封じ込め、アメリカの権益を維持することだったのを明らかにしている。 彼は、こう自慢する。『新マレーシア政府最初の一歩は、中国のインフラ出資凍結だ。』
ミャンマーでも同じことの繰り返しパターンだ。NED資金で、数十年にわたり、国内に並行する政治制度を構築し、最終的に、2016年、アウンサンスーチーとアメリカに支援される彼女の全国民主連盟(NLD)の権力掌握をもたらした。ミャンマーにとって、現地の反政府派に対するアメリカ支援は実に根深く、本格的で、選挙で、毎回、事実上、アメリカが支援する候補者の勝利は保証されていた。アメリカ全米民主主義基金自身のウェブサイトだけでも、世論調査から、政党構築や、メディア・ネットワークや中国が始めたインフラ計画を阻止するために使われる「環境保護」団体への資金投入など、あらゆることのために、アメリカ政府資金を受け取る80以上のプログラムと組織を列記している。
今年の2月、アウンサンスーチーとNLDを追放したミャンマー軍による動きは、これを是正することを意図していた。 だが、街頭で抗議行動する政治団体の支持に加えて、アメリカは何十年も、全国的に反政府派民族を支持し、武装させてきた。これら反政府派は今アメリカが支援するNLDと連絡を取り「国際介入」に対する明示的要求を含め、2011年にアラブ世界に対し、リビア、イエメンやシリアなどの国で使われたアメリカが支援する政権転覆戦術を繰り返している。
アメリカが画策した「アジアの春」
2011年、アメリカが「アラブの春」の際にしたと同様、アメリカ国務省は、アジア中で様々な政権転覆キャンペーンの相乗効果を作り出そうと、アメリカが支援する個別政権転覆の企みをアジア地域規模の危機に転換するため「ミルクティー同盟」を導入した。BBCは「ミルクティー同盟:ツイッター、民主化運動活動家用絵文字を作成」という記事(https://www.bbc.com/news/world-asia-56676144 )で、こう認めている。『この同盟は香港と台湾の反北京抗議者とタイとミャンマーの民主化運動活動家を糾合(一つに束ねる)。』
BBCの「ミルクティー同盟」報道で(意図的に)抜けているのは、それを結び付けている本当の共通点だ。全米民主主義基金などを通したアメリカ資金供給、アメリカ国務省自身が推進する趣旨に基づく中国嫌悪という共通点だ。
ペンタゴン・ペーパーズに戻る。
そこではすでに「インド-太平洋の枠組み」のような最近のアメリカ政府政策報告書を垣間見ることができる。『アメリカはどのようにして、中国が平和と繁栄を推進する協力地域を育成できないようにするか。アメリカはどのようにして、インド-太平洋地域で戦略的優位を維持し自由な経済秩序を推進するか?』この最近出された報告書のキャンペーンは、中国新彊での「中国による大量虐殺(ジェノサイド)」をでっちあげるプロパガンダ戦争だ。その報告書で、中国通信機器企業ファーウェイが世界規模の安全保障上の脅威であり、今日の世界平和と安定に対する最大の脅威は、アメリカではなく、中国なのだと主張している。
これらの出来事が全てつながっていることを理解し、アメリカの取り組みの成否を精査すると、「中国包囲」におけるワシントンの策謀の全体像がより明確な構図として浮かび上がってくる。それはまた、アジア各国政府や地域ブロックにとって、アメリカの破壊活動から身を守るためにはどのように政策を展開すべきかを考えるための明確な構図にもなる。
♣ニュージーランド、中国を「大量虐殺(ジェノサイド)」のかどで非難するのを拒否2021.05.28 ジョセフ・トーマスNew Eastern Outlook http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-3bcef7.html
♣フランスのマクロン大統領「インド太平洋戦略の我々のアプローチは、誰とも連携しないことだ」、「私が提唱したいのは、中国の奴隷にはならず、この問題で米国とも連携しないという立場だ。欧州(EU)にも(同調を)期待したい」https://jp.reuters.com/article/china-france-idJPKCN2DN07B 2021.06.11