日本の種苗法改定はRCEP(自由貿易協定の一種)と関連!
「白人より白くなりはてた日本人」がアジアの農民を破滅に追いやるストーリー
♣ろくな審議もなく種苗法強行採決 衆議院農水委員会 2020.11.19 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/19197 (以下、要点のみ)
これほど種苗法改正案の成立を急ぐ動きの他方で日本など15カ国が15日、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)に署名した。日本政府はできるだけ早い時期のRCEP発効をめざすとしているが、種苗法改正はRCEP発効とも関連した世界的な動きの中、多国籍企業が世界の種子を支配するという真の狙いが鮮明に浮かび上がる。
1991年に改定されたユポフ条約は、種子を開発した企業の知的所有権を守り、農家の自家採種をする権利を奪う国際条約だ。この条約を批准した国はそうした保護品種の知的所有権を守る国内法をつくる義務が課せられる。一部の多国籍企業が知的所有権でもうけ、アジアをはじめ世界の農家が種子を採る権利を奪われる。
これまでの自由貿易協定のなかでは「知的所有権」については、おもに工業製品を対象にしていた。だが、モンサント社などは工業製品に限らず、動物や植物、微生物などの生命についても「知的所有権」として認めるようねじこんでいる。
1995年、知的所有権に関する協定=TRIPS協定が成立した。
そして、知的所有権の権限をさらに強めた協定=TRIPSプラス(動物や植物の特許も入る)を呑むことを、アメリカ政府は様々な自由貿易協定で交渉国に求めてきた。
2016年2月に署名されたTPP交渉(2017年にアメリカ離脱)でも、アメリカで推進の先頭に立ってきたのはカーギルやモンサントなどのアグリビジネス系の多国籍企業であった。安倍政府が種子法廃止を提起したのも2016年9月あり、その背景にTPPの動きがあったことは確実だ。
生命に特許を認めることに対する反対は強く、TPPにもTPP11にもTRIPSプラスを盛り込むことはできなかった。 ところが日本政府はRCEP協定のなかにTRIPSプラスを盛り込むことを強力に働きかけ、圧力を加えてきた。
RCEPの加盟国はASEAN加盟10カ国と、そのFTA締結国5カ国の15カ国だ。当初インドも加盟する予定だったが、昨年脱退。インド脱退の理由にも種子の自家採種禁止がかかわっている。アジアのRCEP加盟国でユポフ条約を締結しているのは日本、中国、韓国、ベトナム、シンガポールだけだ。それ以外の国はRCEP発効とともにユポフ条約批准が義務づけられ、TRIPSプラスが適用される。
RCEP協定交渉のなかで日本政府は先頭に立ってユポフ条約加盟を推進し、「種子の権利を奪う」圧力を加えてきたことでアジア諸国の反発も買っている。たとえばインドネシアに対して日本政府が強い圧力をかけて自由貿易協定を締結することで種苗法が改定され、2019年9月にはさらに自家採種を禁止する法案が可決された。
インドネシアをはじめアジア諸国では、日本は名指しで「他国の農民の種子の権利を自由貿易協定を通じて攻撃するな」と批判されている。
多国籍企業への反発強まる 在来種の価値再認識
RCEPを昨年脱退したインドでも種子をめぐる多国籍企業との攻防があった。インドでは種子企業がモンサントに買収され、遺伝子組み換えコットンが押しつけられた。種子価格は導入時には安かったがすぐにつり上げられ、債務が膨らみ自殺をよぎなくされる農民が続出した。自殺者は30万人にのぼったとも報じられ、社会的に大問題となった。政府は、モンサントが販売する種子価格の統制を決めた。
インドは生命への特許を否定し、2001年に「種苗保護および農民権利法」を制定し、登録品種を含む自家採種・交換する権利を農民に認めている。モンサント社の種子価格の統制ができたのもこの農民権利法があったからだ。インドではRCEP発効で農民権利法が無効にされることが強く懸念されていた。
ブラジルでは2003年改定の種苗法でクリオーロ種子条項をもうけ、地域の農家が持つ伝統的種苗を守る政策をうち出した。韓国では多くの自治体が在来種保全育成条例やローカルフード育成条例を制定している。EUも2021年から有機農家がつくる種苗が売り買いできるようになる。アメリカでも2019年、ネイティブ・アメリカン種子保護法がつくられた。
また欧州特許庁は通常育種による新品種(植物、動物とも)には特許を認めないことを今年5月に決めた。遺伝子組み換え企業は通常育種の品種にも特許を申請しており、種子への特許に反対する運動団体が反対運動を続けてきた結果だ。
1998年以降、種苗市場では行きすぎた寡占化が進み、遺伝子組み換え企業4社が7割近い市場を独占している。また、世界で生産される種苗の品種の多様性が激減し、急速に在来種苗が失われ、単一作物の大量生産や気候変動などの影響で菌病や害虫被害が激増している。
こうした破局的な結果は、農業を民間企業にまかせ、大規模化させ、工業化させてきたことから行き着いたものだ。そこから、土や気候に適合した農地で自家増殖された種苗の意義が再発見され、追い詰められてきた小農の運動が世界的な規模で広がり、その権利が国連で認知されるまでになった。
とりわけ2007~2008年の世界食料危機以降、世界の流れは変わり、地域の多様な種苗が見直されてきた。自家増殖することは農民の権利としてだけではなく、種子が土や気候も記憶し、その地に適応していくことに光があたってきた。遠くでつくられた種子よりも、地域で育てられた種子の方が適応能力が高く、環境に与えるインパクトも低くなる。
世界的な流れを見ると、モンサント社など一部の種苗企業による種苗の独占や、種苗事業において民間企業が中心になるというのは過去の話になっている。むしろ在来種を守ることに注目が集まり、種子の決定権こそが民主的な社会の基盤であるとの主張が高まり、それに沿った政策が世界各地で生まれている。
こうした世界的な流れに真っ向から逆行しているのが、日本政府の種苗法改正やRCEPだ。1990年代後半の発想のままであり、生命への特許を認め、知的所有権を持つ極少数の企業が世界の食を独占する方向をめざすものだ。モンサントなどによる産業的な種子による食料生産は地球上では4分の1にすぎず、4分の3の食料は農民の持つ種子で供給されている。日本政府の種苗法改正やTPPやRCEPなどの自由貿易協定は、農民の種子の権利を奪い、モンサント社などがつくる産業的種子を押しつけることを狙うものだ。種子を独占することは食料生産を支配し、命をも支配することにつながる。