日本改革のための医療経済学
♣コロナ感染爆発 プランBで抑え込め!【山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち】2021.08.16 https://www.youtube.com/watch?v=ldbSxJK8VFI
ゲスト兪 炳匡氏(「改革のための医療経済学」の著者)
日本のコロナ対策の根本的問題
現状についての科学的医学的分析に基づく系統的で合理的な政策決定の姿勢自体が日本にはない。世界や先進事例に学ぶ謙虚さにかけている点。医療を含めた社会全体に及ぶ影響を総合的にみる視野に欠ける点。世界で採用されている医療経済学をとりいれた医療政策が日本ではなかなか採用されない。例えば「費用対効果分析」という経済分析による政策など、日本は英米に20年遅れ、台湾、韓国に10年遅れ、東南アジアにも遅れている。医療従事者への配分は相対的に薄く、一方でCT/MRIなどの医療機器への配分が手厚い。これが効率の良い資源配分であるかどうかを考えるのも医療経済学の研究課題。
コロナ対策の3つの「防衛ライン」
「第一防衛ライン」でPCR検査をしっかりやれば、「第二防衛ライン」で軽症者を療養施設・自宅で十分、適切に隔離でき、それによって、「第三防衛ライン」である大学病院などが重症患者であふれる医療崩壊を起こさずにすむ。すなわち医療経済学的な見地からは「第一防衛ライン」のPCR検査をしっかりやることが最良のコロナ対策となる。
負けを減らす(=医療崩壊を起こさない)ためのイノベーション
日本はかつてはイノベイティブであったが、90年代以降はその研究能力が衰退している。人材が養成されていない。同じやり方(「勝ちを増やす」やり方)では成功しなくなった今、やり方を変えるべきだ。
そもそもイノベーションの定義が狭すぎる。自然科学分野ばかりだし、特定の事業が儲かるためのものに話が限られている。ここまで遅れをとると、コロナワクチンや治療薬開発などの「勝ちを増やす」ためのイノベーションは難しい。「負けを減らす」イノベーションにシフトするべきだ。
例は、韓国のPCR検査「ドライブスルー」方式(誰でも、どこでも、いくらでも検査受けられる)や、中国がやったバスに検査機を乗せて各地を巡る方式も、自然科学ではない分野でのイノベーションだ。日本の検査機器は世界のトップレベルにあるのだから、それを乗せたバスを使ってPCR検査を地域で集中的に行うことも「負けを減らす」ためのイノベーションになる。
人材養成が必要
例えば、厚労省や文科省などの役人で博士号保持者は5人もいないだろう。医療経済学、統計学の分野では一人もいないと思う。コロナ対策に必要な大規模データーをもとにした計画が出たとしても、それが適正がどうかを審査できる人材がいない。
マスクのガイドラインを例にとっても科学的とは言えない。引用した文献は3つのみで、そのうち2つは世界の誰も引用してくれないような文献。(マスクガイドラインのための文献の引用数: 米国-89、EU-131、WHO-145)
医療従事者の人手不足をなくす
原因は、給料が少なすぎることと、ワクチン摂取などに人手を取られている現状がある。他の職種の人を訓練して摂取役をかわってもらい、医療従事者はコロナ治療に専念する。医療従事者の家庭内感染を防止するためのホテル住まいも有効。
地方に「医療城下町」を作る
地方の病院が閉鎖されたため高齢者が都会に移住する傾向があるが、反対に、都市住まいの人がふるさと納税などを利用して地方に「疎開」しやすくする方がいい。地方はきちんとした医療やPCR検査を提供することで人口を都市から呼び戻す良い機会としてとらえるべきだ。医療機関さえきちんとあれば、老人施設も存続でき、そこに職場ができ、その町は存続できる。地方の医療機関を潰してはいけない。
♣いまこそ科学的コロナ対策を!(兪 炳匡)【山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち】2021.10.05 https://www.youtube.com/watch?v=jNiLSNg5OfY
科学的根拠によるコロナ対策に必要な感染予測モデルを作成するためのデーターサイエンスに関して、日本には研究グループが1つしかない。米国には約20ある。そのためか、日本全国の予測が一括して出るだけで、都道府県ごとの予測がない。米国では3000以上の地方ごとの予測まで出る。
神奈川県独自の感染症予測モデルを完成:
二次医療圏を単位に、必要な病床数を予測する。人流の変化、ワクチン摂取率(ワクチン供給予定)などの要因の変化によって必要になるであろうICUベットの数、医療従事者の配置などを二次医療圏ごと予測できるモデル。感染予測するために大事なのは大規模なPCR検査て早期に感染(変異種)を発見することだ。初期からデーターを多く集めることで、感染拡大に関する予測モデルの精度が高められる。
岸田内閣のワクチン検査パッケージに関して:
時期尚早。それ以前にやるべきことは、ワクチン摂取を希望者全員にできるようにすることと、PCR検査を充実させること。無症状者が検査をいつでもどこでも無料で受けられる政策を実現することが先決。
PCR検査の費用対効果分析の仕方:
まず検査により早期に陽性者がみつかる。それによって、早期に感染者隔離ができるわけで、その結果、以後の感染者数を減らせる。感染者が減ることで医療費にどのぐらい差が出るかを分析する。
抗原検査がいいかPCR検査がいいかも費用対効果分析をする。PCR検査の感度がよくても結果が出るまでに3日以上かかったのではその間に感染を広めるのでやる意味がない。感度、特異度、コスト、結果が出るまでの時間、などの要因を組み合わせて分析するべき。
これからのあるべき対策は:
2021年5月以降の大阪は100万人当たりの死者数がインドより悪化し世界最悪水準に近かった。科学的根拠による分析が全くなされないままのコロナ対策はやめる。政策立案者の思考回路が膠着していて、この30年間ひたすら企業減税を続ける一方で社会保障、特に医療費のコスト削減をターゲットにしてきた。パンデミック禍では「医療資源拡大すべき」という思考回路に切替える。厚労省は「医療の効率化」というがこれはミスリーディングである。百以上もある「効率化」指標のどれをとるかは価値観の問題になる。感染症が減少傾向にあった過去にたてた病床削減という指標をそのままパンデミック禍になった現在に使うべきではない。日本は新自由主義的な資源配分にあまりにも進みすぎた。国際比較をするとその異常さが自覚できる。効率化は診療報酬のさじ加減でも調節できる。遠隔医療も解決策の一つになる。医師が医師に遠隔診療でアドバイスを与える。医師が患者を遠隔診療で診る。コロナを機会に、厚生労働省が時限立法でよいから法律を作り、特殊なケースを救急の医師などが遠隔でアドバイスを受けられるようにしてみたらどうか。