「統治行為論」を執る司法下では緊急事態条項にハドメなし!
◆ 緊急事態条項に警鐘! 長谷部恭男 ・早稲田大学教授 憲法学者
「( *)統治行為論」がある限り政府の権限をコントロールすることは不可能だ。仏、独、米の憲法体系を踏まえてもいらない」
「単一の生き方に国民を誘導するのが自民党改憲草案の考え方である」
「安倍総理は『法の支配、民主主義は普遍的な価値』とよくいうが、単なるリップ・サービス。騙されてはいけない」
2016/02/05 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/286061
日本で緊急事態条項ができた場合に恐ろしいのは「( *)統治行為論」があること
「世界にはさまざまな『緊急事態条項』があるが、権力を掌握した政府の暴走を許さないための『グローバルスタンダード』が存在する。それは、『裁判所によるコントロールが不可欠』という共通認識である。日本がグローバルスタンダードに適合しようとするのであれば、統治行為論を始末する必要がある」。
「かつて裁判所は、たかが衆議院の解散にも『高度に政治的』だとして口を出さなかった。緊急事態条項ではなおさらのはずだ。仮に緊急事態条項を設けるのであれば、『統治行為論は使わない』と憲法に書く必要がある。でなければ、政府の権限をコントロールすることは不可能だ。何しろ『ナチスの手口を真似るべきだ』などという人が副総理を務めている。用心に越したことない」
(*統治行為論: 国家の存立に関わる高度に政治的な問題については、裁判所は違憲審査を回避する」という法理で、日本では、在日米軍基地の違憲性が問われた「砂川裁判」や、衆院解散の行使権の合憲性が問われた「苫米地裁判」で適用された。)
使いものにならないフランスの「緊急事態条項」〜「仏を真似しろ」というミスリードに騙されるな
オランド仏大統領が発した「非常事態宣言」は一般法に基づくものであり、憲法の「緊急事態条項」を発動したわけではない。確かに仏憲法に「緊急事態条項」は規定されているが、「共和国の制度や国の独立、領土の保全、国際条約の履行が脅かされ、かつ公権力の適正な運営が中断されるときに始めて発動できる」と使い勝手が悪い規定であり、アルジェリア戦争時に1度発動されたきり、現在まで発動されていない。また、憲法にある「戒厳令」の規定も、「治安と司法の権限を軍に委ねる」というもので、今日においては発動自体が想定されがたいものである。今回のテロ事件を受け、仏では改憲しようとする動きがあるが、、「テロ犯罪で有罪とされた人が二重国籍保持者だった場合に仏国籍を剥奪できる根拠となる規定を憲法に入れてはどうか、という議論であって、そもそも二重国籍を憲法で認めていない日本とは関係がない」
ドイツの「緊急事態条項」は、連邦国家でもない日本には応用できない。
連邦国家であるドイツでは、立法、行政の権限が連邦政府と各州の政府で分割されており、「緊急時に連邦政府に権限を吸い上げて事態に対処する必要がある」ため緊急事態条項が規定されている。 「日本は連邦国家ではないし、災害対策基本法や有事法制によって,現時点で必要な制度はできている。他にも必要であれば、国会で新たに法律を作ればいいだけの話だ。」 連邦政府が「吸い上げた」権限も極めて限定的で、国民の身柄の拘束に関する期間の限定を、通常の1日から4日間に延長する程度のものであり、また、その際も権限が乱用されることがないよう連邦裁判所によるコントロールが働く制度になっている。日本は(現行法ですでに)身柄の拘束期間が長く、逮捕・勾留により、最大で23日間も被疑者の身柄を拘束できる。この点でもドイツの「緊急事態条項」は日本には不必要だといえる。
米国に緊急事態条項はない。
合衆国憲法の「議会緊急招集権」は日本で整備済み。米国には憲法上、緊急事態において政府への一時的な権力集中を認める明文規定は存在しない。合衆国憲法第2条3節は、「大統領は、非常の場合には、両議院またはその一院を招集することができる」と議会の緊急招集権を認めているが、「日本では非常事態でもあっても非常事態でなくても、内閣は必要に応じて臨時国会を開けるので、日本で新たに規定する必要ない」
「衆院解散の延長規定」は重箱の隅をつつく議論。戦時中は空襲中にも選挙は行われていたという歴史的事実がある。
以上 早稲田大・長谷部恭男教授の講演の要点でした。彼の忠告を肝に銘じながら、日々のニュースを聞いてください。
「安倍総理は『法の支配、民主主義は普遍的な価値』とよくいうが、単なるリップ・サービス。騙されてはいけない」
「単一の生き方に国民を誘導するのが自民党改憲草案の考え方である。」
なお、ドイツの緊急事態条項については水島朝穂氏が詳しく説明されています。
ドイツ基本法の緊急事態条項の「秘密」 早稲田大学教授 水島朝穂氏http://www.asaho.com/jpn/bkno/2016/0201.html
2016年 2月10日 セワヤキ www.sewayaki.de